迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説


     3



ほんの寸前までは、
若さゆえのしゃにむさの発露が、だがだが非情な現実に弾かれてしまい、
思い切り失速した末の絶望に向かい合わされてのこと。
失意のどん底という悲惨な様相を
その身がまとう虚ろな空気で体言してらしたはずだのに。

 「こ、このパンはっ。」

小さなアパートの1DKフラットの入り口脇に、
一応のキッチンスペースとして据えられたコンパクトな流し台の下。
よくある合わせ扉の中の、その奥行きいっぱいに。
ある意味 場違いだったかもな取り合わせ、
そりゃあ整然と並べてあった、
山ほどのパンの一群とのご対面により。
膜がかかっていたかのようだった双眸がパチンと弾け、
一気に軽い興奮状態になってしまった さんであり。

 「何て見事なパンでしょうか…。//////」

それでなくとも他所様の家の物だからだろう、
そおと注意深く取り出した 食パンタイプの1斤を
底の方をそおと支えての両手持ちという丁寧さで掲げ持ち。
まるで何処ぞかの王室の秘蔵のティアラでも鑑賞するかのように、
目線よりやや上へと高々と掲げたり、
ぐるりと回して四方八方からそのフォルムを確かめたり。
おおお、頬まで染めておいでだぞと、
見ていた側が慄いたほど大仰なレベルでの
集中振りと夢中振りを呈しておいでで。

 “あのあの、それって ただのパンですよ?”

時価数千万もするような宝飾品でも無ければ、
匠の技が見るからに秀でた、
砂糖菓子細工のシンデレラ城でもありませぬのに。
えとえと、
このくらいの年頃のお嬢さんだと、他に何にうっとりするだろか、

 《 やっぱり…山嵐のDVDとか?》
 《 あれは別口の、苦行家タイプな人の好みだと思うけど。》

まだ誤解しているんでしょうか、ブッダ様…。
かように、相変わらず世慣れしてない彼らでなくとも、
やはりやはり引き合いに出せるものに困ったくらいの、
そりゃあもう陶酔レベルのいいお顔。
夢見心地とはこのことか、
ともすれば うっとりとした表情になっておいでの、
うら若きお嬢さんだったのに引き換え、

 「いや、あのその…。」
 「それは、その…。」

今時 ドラマでも珍しい、
それはリアルな青春の光と影を目の当たりにし。
絶望からの傷心、手ひどく傷ついてしまった少女へ、
私たちは理解者だからねと激励の声をかけ、
あとは“今後も頑張りなさいね”と送り出すだけだったはずが。
表面的な表情こそ、
何とか落ち着きを保てている…と頑張っているものの。
その内心では、

 まあまあ、何という急転直下でしょうか、と

さながら、ロッテンマイヤーさんの抜き打ちチェックにより、
タンスに隠していた
大量の白パンを見つけられてしまったハイジのように。
(え? ちょっと違う?)
内なる彼らがそれぞれに、頭を抱えたり、頬を押さえたりして、
パニクったまま右往左往しているばかりな、
正に正に形勢逆転中の 最聖人のお二方だったりし。

  というのも、これって
  パンの正しい収納法を知らなかった…って
  だけな話じゃあないからで。

このお話の冒頭で攫ったように、
こちらにお住まいの この方々は、
実はも何もなくの明らかな事実として、
天世界から下界へ降臨したもうた、
それはそれは尊い御身のお二人なのであり。
ただし、あくまでもお忍びのバカンス逗留なので、
世間がどよめくような大騒ぎになっては何にもならぬと、
その身の素性のあれこれを、伏せておいでであったりするのだが。

  口を塞ぐだけでは到底隠しようもないのが、
  その御身へと備わっている奇跡の数々で。

その生涯に於ける徳に添う教えという格好で、
経典の中に記されたものも少なくはない、その奇蹟の御力は今でも健在。
徳の高い言動や…たまには怒りという感情の高揚に伴って、(苦笑)
目映い後光が燦然と輝いたり、何の その身そのものが発光したり。
集中することで御身が浮き上がってのこと、
湖面を濡れぬままで浮遊歩行できたり…なんてのは序の口で。
その尊い血が触れたものが片っ端から奇跡の聖遺物になったり、
姿勢を正せばオーラが増して、思わぬお布施や信者を招き寄せたり。
道を急ごうという切迫した意図を酌んでのこと、
ブッダ様の足となりたいとばかり、
何処からともなく鹿や鳥らが集まって来たり。
楽しいことや至福の感慨を実感なさったイエス様に至っては、
いばらの冠飾りへ深紅のばらがたわわに咲き乱れたり、
触れた水がブドウ酒になったり、○ァンタグレープの冷泉が湧いたり、
やはり触れた“石”が片っ端からパンになったりするものだから。

 「これ、強力粉だけのパンじゃないですよね?
  ライ麦、いや、全粒粉も使ってらっしゃる?」

 「さ、さあ、それは…。」

厳密に言やあ、磁器と陶器は別物だそうだが、
石という大元の源まで溯ってしまえば同じカテゴリに括れてしまう。
それでだろうか、今のところは
和食器・洋食器の区別なく、同じ風合いのパンになっているのが現状で。
だというに、

 「ライ麦パンほど黒っぽい粗いパンでもなし、
  酸味の香りもしませんしね。
  サワードウを使ってらっしゃらないということは、
  イースト菌でまとまるということだから、
  しっとりこまやかなところからしても、
  小麦の率が高いということかしら…。」

ぶつぶつと専門用語を並べた 嬢のお言葉によれば、
パンという食材は、小麦粉かライ麦かという差だけで
焼き方も違ってのこと、随分と違ったパンになってしまうという。

 《 そんな複雑な区別の存在する世界の
   繊細微妙な物差しをわざわざ持って来られても…。》

 《 気持ちは…と言うか、
  そうと来る方が よほど常識的なのは判ってるんだけどもね。》

ちなみに、正確なところを言うならば、
さんが手にしておいでのは、
コンビニの一番くじで当たった トニトニチョパくんのマグカップだし、
すぐ手前に見えているのは、数合わせにと百均で買った平皿の成れの果て。
元値や形状の違いで風味が違ってくるかどうかまでは、まだ検証したことがなく、

 “食べちゃったことが無いとは言わないけれど。”

陶芸セットについてた粘土が変貌した折は、
そのままトーストしてましたよね。
他にも“プディングにするから”と言ってたパンがあったような…。
ただ、それをわざわざ望むのはさすがに酷ながら、
手にかけた張本人のイエスが 悲しい気持ちや残念感に満たされたなら、
真逆の現象が起こせもするそうなので。
だったらと、その機会を待つ間、元の定位置に置いてあるまでなのであり。
売り出しになれば一斤百円ちょいで買える食パンと、
片や、物によっては結構思い入れがあったのを変化(へんげ)させられた、
微妙に“プライスレス”なもの…と来ては、
なかなか食用認定しにくかった彼らであってもしょうがない。

 《 こんな形で、
   自分たちの間の常識を それは違うと指摘されようとはっ。》

 《 いや、イエス。そこまでキメ顔にならなくとも。》

宥めようとするブッダとて、
卓袱台の下で こっそりぐうに握られた手の、
節のところが白く牙を剥くほどになっており。
物の道理にかけては、人を言い諭すのも常の習いのようなものと、
それは落ち着いてあたれるお人らだというに。
ちょっとした羽目はずしの動かざる証拠を見つけられた途端、
どうしよどうしよと 目一杯浮足立ってしまっておいでなのであり。
そんなところへ、

 「これ…お買いになったものじゃありませんよね?」
 「う…。」

だって裸のままですしと。
さんは あくまでも
他意なく口にしているだけなのだろう文言の一つ一つが。
だからこその逃れようのない鋭さと、容赦ないまでの威力もて、
痛いところをずぎゅんずぎゅんと狙い撃ち状態になってたり。
ほんのさっきまでは、
やあ微笑ましいなぁと大人目線で構えていたはずが、
すっかりと形勢逆転されておいでな 最聖人様がただったりし。

 《 うう…。》
 《 油断していたのは事実だよね。》

何かと事情が通じている“天世界”の人以外を
この部屋へ上げたことがないではない。
管理人の松田さんは元より、
イエスをどっかの極道の二代目だと勘違いしている竜二さんも、
お中元をと持って来てくれた折に上がってもらったし。
ただ、そういう人たちは完全なるお客様なのであり、
上がり込んだ上で“勝手知ったる”と戸棚まで開けられる恐れなんて
まるきり想定していなかった。
こたびは文字通りの予想外な事態が招いた展開の中、
そんな隙を見事に突かれたようなもの。

 なので、
 うわあっと景気よく
 パニック状態になってしまった二人じゃああったけれど。

 “…う〜ん。”

パンの正体を怪しまれるかもというのは、
実は先走って考え過ぎかも知れぬ。
さんの屈託のない感心の度合いを見るにつけ、
その点への杞憂は早計かも知れぬと。
早鐘を打っていた胸を よーし・よしゃよしゃよしゃと宥め伏せ、
ようやく取り戻せた冷静さから、
正しい分析をし直したのは、誰あろう
苦行にお強いブッダ様に他ならず。

 パンが見つかっただけで、
 自分たちの起こした奇跡まで
 嗅ぎ取られたんじゃあ…と早とちりしかけたものの。

落ち着いて反芻すれば、
パン職人としての常識を口にしているだけな彼女であって。
あなたが感心しているそのパンたちは、
実は皿や食器を奇跡でパンにしたのだと言ったれば、
はぐらかさないで下さいと むしろ怒り出す嬢なのかも知れぬ。

 “そうさ、ボロを出さねばいいんだ。”

誰がそんな、物理的に有り得ない奇跡を信じましょうや。

 “……。”

いやいや、いやいや、
そうであってもらわにゃ困る事態だってのに、
訴え掛けるような涙目で、こっち見ないでイエス様。(笑)
そうだぞ、気をしっかり持ってと、
卓袱台の下で励ますように、
相棒の手をぎゅうと握って差し上げたブッダ様としては。

 “こうなると…。”

そうならそうでという現実的な観点へ立ち戻ったところで、
別な意味合いからもっと覚悟せねばならないだろう、
恐れている展開があることへ。
日頃の聡明さを何とか取り戻しつつ、
それと比例して膨らみ出したいやな予感の輪郭へと背条を凍らせる。
いやいやまさか…と杞憂を打ち払おうとしておれば、

 「これをお焼きになったのはどちらの方でしょうか。」

卓袱台の傍に座ったままでいたとはいえ、
もはや箸もお茶椀も置いての、
背条を伸ばした正座状態になってた大人二人を、
忙わしくも交互に見やったさん。
嘘はつけないと、イエスの方を見やったブッダと、
それを肯定すべく…の割に 犯人ですとの自首よろしく、
やや項垂れたイエスだったのを見、
答えを得たそのまま、

 「私をどうか弟子にしていただけませんかっ!」

言ったと同時に、卓袱台の傍まで駆け戻り、
正式な修行なぞしてはないだろうに、
見事な五体投地で頭を下げて見せたさんだったのを、

 《 あーあーあーあー…。》

その胸中にて ついつい単調な声をこぼしつつ、
瞳孔が開いたお顔で眺めやってしまったブッダ様だったのは、
だがだが、決して投げやりになったからではなくて。
取り返しのつかないこの事態へと運ぶこと、
数刻前から何とはなし予測は出来ていたのにね。
何で防げなかったか、策がなさすぎるぞ自分たちという
そんな情けなさが紡いだ、一種 悲しみのスキャットのようなもの。

 「弟子と言われても…。」
 「お願いしますっ。」

小さな体をますますと丸め、
いいと言ってくださるまで顔を上げませんと必死な様子の
そんなさんにしてみれば。
唯一の頼みの綱だった伯母様が不在という、
冷酷極まりない現実の中、
想いもよらない凄腕のパン職人と出会ったぞというこの事実は、
きらりんと天から下がって来た希望の糸のようなもの。

 「伯母さんとすれ違いになった悲劇は、でも、
  このような匠との出会いという
  素晴らしい宿命を用意してのことだったのですね。」

 「いや、匠とかそんな…。」

これが…今更 家へ返さないでという、
微妙な下心から出たような、単なるおべっかだったなら、
きっぱりと振り切ることへの罪悪感もないけれど。

 「だって、この瑞々しさはどうですか。
  質感はバターを使わぬフランス風の手法を感じさせつつも、
  きめの細かいしっとりもちもちな仕上がり。
  これは日本の食パン独自の繊細さに他なりません。」

秀でた職人が秀でた匠へ向ける尊敬の念、
それ以外の何物でも無いとひしひし判るものだから、

 《 でもきっと、ちゃんの方が
   基本に忠実なそれは素晴らしいパンが焼けると思う。》

 《 うん、私も。》

だって私、小麦粉捏ねたことすら無いものね。
せめて大工仕事でのお声掛けなら、多少は見せどころもあったかもだけど、と。
声こそ淡々としたそれながら、
手上げ万歳と同義だろう、情けない泣き笑いのお顔になってしまったイエス様。
もちょっと押されたら額の聖痕が開くかも知れずで、
それもまた…最強のセコムが飛び込んで来たらば、
ますますもって収拾がつかなくなる、不味い事態になろう点では代わりなく。

  ―― ああ、起死回生の何かは無いものか

焦る気持ちをぐぐうと押さえ込み、
そう、途轍もなくハードルが高い企画が設けられた折の、
R2000の締め切り前の修羅場を思い起こしつつ。
何か何か…と、
現状打破の糸口を探すことへ集中してみたブッダ様。
そこへ、

 “………………っ。”

あたふたし過ぎでうっかりと見過ごしかかったが、
一番にゆるがせに出来ない問題点が1つ。
こちらもまた、彼へはきらりんと輝いて見えたものだから。
それをすかさず掴み取ると、

 「でもね、さん。」
 「はい。」

傍目には先程からずっと変わりなくの泰然自若、
でもでも実は、
相当な距離のマラソンを強いられた末のような心持ちにて、
うら若き求道者へと向かい合ったブッダ様であり。
曰く、

 「もしかすると君は今、家出中なんじゃあないのかい?」

 「え? ………………………あ。」

恐ろしいことには本人も自覚がなかったらしく。よって、

 「…え? そうなのかい?」

家庭内のごたごたや不和、
それに端を発する青少年の家出や非行など、
布教していた渡る世間に 結構見て来た身のはずのイエスでさえ、
そうなのだという事実にピンと来ていなかったのも無理はないのかも。
まま、今はそれもスルーして、への言葉を続けるブッダであり。

 「伯母様の元へ辿り着き、必死で頼み込むことで、
  パン職人としての修行への道、
  何とかつなごうという一縷の望みがあったから。
  それで自覚もなかったようだけれど。」

正座をしての言い諭し、
滔々と紡がれる口説は、さすが世界三大宗教の始祖だけあって、
文言も淀みなければ、その口調も耳に入りやすくって。

 「そして、その望みが断たれたと判ってしょげてた君は、
  実家へ帰るしかないと思ったはずではありませんか?」

 「あ、はい…。」

正しくその通りとそれは素直にうなずきつつ、
一体どうしてこの人は、
私の思うこと、私がまだ形にさえしては無かったのに判るんだろと。
そこが不思議だとキョトンとしてさえいるのが、
こちらからすりゃ本当に幼い。
そんな少女に突き付けるのは少々酷なことではあるが、
これもまた事実だ、仕方がないと。
笑えば暖かでまろやかこの上ないお顔を、
恣意的にきりりと引き締めたブッダ様。
そうしたことで室内の空気までもが真摯に冴えての引き締まり、
それへと乗じて すぱりと言い放ったのが、

 「実家へ“帰るしかない”という考え方が出るということは、
  残る選択は、帰らない、
  つまり、家を出ようと思っていたということですよね。」

 「え?」

そもそもの目論みでは、
親戚にあたる伯母様のところへ身を寄せようと思っていたワケだから、
家出するのだというよな覚悟なぞ、ないも同然だったのかもしれないが。
実家にいては佃煮屋を継がされる、
それは嫌だというところが譲れない彼女なのは明白なだけに、
ブッダが導いた推量には一応の正当性もある。
それを踏まえた上で、

 「だったらまずは、
  独立して一人暮らしがしたいと、
  そうと親御を説得すればいい。
  大学へ進学するのならそれも善しと
  仰有っているのでしょう?
  まずはとそれを選んで足場を固める
  そんな長期計画を構えてもいいはずでは?」

 「あ…。」

さんの 虚を突かれたというお顔へ、
目元を柔らかくたわめてもっての、重ねて紡いだのが、

 「定年退職してから店を持って、
  悠々自適、
  主張のあるパンを焼く人も少なくはありません。」

実はブッダさん、某『人生の楽園』が結構お好きで
毎週欠かさず観ていたりする。
第二の人生で伸び伸びと好きなことに打ち込むというのも、
成程悪くないかも知れぬ。

 “自分は説得かなわず、力技で家を出て出家したんで、
  尚更そういうのお勧めしたくないのかなぁ。”

そういや、松田さんから家出と出家とどう違うのかと問われたときも、
ご本尊でありながら ちらりと戸惑っていたような…。(う〜ん)
まま、イエス様からのプリミティブなツッコミはともかくとして。

 「だから、」

ここは一旦お家へ帰りなさいと、
冷静になってようよう考え直しなさいと持ってゆくつもりだった。
いえいえそんな、
何とも説明できないところが多すぎるパンに
これ以上関心持ってはいけませんとか何とかいう、
大人の事情がぷんぷんと匂うよな、
怪しい本音なんてどこにもありませんともと。(苦笑)
そのような穏やかな口説を紡ごうと仕掛かったブッダだったのを遮って、

 「私、履歴に家出という経歴がついても構いません。」
 「はい?」

すぱりと清かなまでのお声がし、
何ですてと、思わぬ反応へ聞き返したブッダ様、
相手のお顔をあらためて見やってみれば。
決意に支えられた真っ直ぐな眸を上げて、
自分が決めた道に立ちはだかる最初の艱難へ、
それこそ真剣真摯に挑むお顔になっているさんだったりし。

 「そんな瑣末なことで、
  一度決めたことを覆しちゃあいけませんよね。」
 「う…。」

ああ、なんてキラキラした眼差しか。
こういう熱意と情熱あふるる目には重々覚えがある。
始まりには困難ばかりが待ち受けており、
自身の悟りへの道のみならず、
一途な教え子たちを導く信念と、
彼らに降りかかる苦難へも手を出さず見守る忍耐も必要とされて。

 “あああ、
  これはアナンダ級の揺るがぬ眼差しじゃあありませんか。”

大人なんて皆な同じだ、
子供だと思って詭弁で丸め込もうとするなんて…とがっかりするどころか、
こんな大外回り的解釈を持ってくる柔軟さ。
純真無垢であると同時、どれほど意志の強い子かを思わせるところまで、
覚えがあるよな無いような。

 「で、ですが。」

ああ、純真な人ほど打たれ強いのを忘れていましたよと、
早くもたじろいでしまったブッダだが、
こちらだってそうそうあっさりと引けはしない。
戸棚に一杯だったパン以外にも、
露見してはいかんという仕分けが未だ曖昧なままなことも含め(えー)
知られてはならぬこと満載な身の自分たちであり、此処という場所なので、

 「実際の話、あなたどうやって寝起きという生活をするつもりですか?」
 「あ…。」

本音はともかく、これには説得の自信もある。何せ、

 「此処は見ての通りの1DK、
  しかも男二人で暮らす家だというに、
  どうしてうら若き女性を一緒に寝起きさせられましょうか。」

さあどうですと、何故だか えっへんと胸を張りたくなった辺り、
心情は判るが、ブッダさんそれって
しゃにむに言い訳を探すときのイエスさんとあんまり変わらないぞ…。

 「………。」

文字通りの物理的なお話。
道義的な、理想論とかいう次元ではない問題なだけに、
こればっかりは気の持ちようでも何とかなりはせず。
さすがに考え込んでしまった さんだったのだけれど。

 「…大丈夫です。何とかしますから。」

いやにあっさりと微笑って応じて下さったものだから、

 「……、…。」

やはりやはり ややテンパってしまわれた二人の大人を前にして、

 「あ、あ、何も野宿するとかいうのじゃありませんのでご心配なく。
  外泊は修学旅行以外はあんまり経験がありませんが、(…おい)
  確か…そう、駅前に漫画喫茶とか あったはずですし。」

先程もそうだったように、
もはやどんな難題も突き破るための試練なんだと解釈するよな
“やる気スイッチ”が入ってしまったらしいさん。
さあさ、そうとなったらお答えを待つばかりですと、
あらためてイエスの方へ向き直り、

 「今すぐに答えを下さいとは申しません。
  わたしの頑張りを見た上で、
  物になりそかならぬのか、厳正に断じて下さいませ。」

きっぱりと宣言されてしまっては、
しかもしかも、
微妙に…即答は要らぬと逃げ道を作っていただいてしまっては、

 「う…、そ、そういう順番であるのなら。」

 “イエスよ、根負けしてどうしますか。”

あああ、ここは“実はわたしが焼いた”と言っておればよかったかも。
ただでさえ圧しに弱くて、今だって涙目になりかけていたほどの怖がりで。
そういうところが
放っておけぬという微妙な意味から“カリスマ性”でもある彼じゃああるけれど。
それと知っていながら庇わなかったのもまた、私の失点でしょうかと。
苦行の重しとしてあらためて胸へと刻んだブッダ様も、
相変わらずという意味では、いい勝負であらせられるような気がします。


  ヲトメの決意の堅きこと、何もこんなところで発揮せずともと、
  だったら親御を説得しなさいよと、
  晩になってしみじみ思った最聖人たちだったという。







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 *理屈まるけな展開になってすいません。
  おかしいなぁ。
  もちょっと軽快なネタを切ってたはずなんですがねぇ。
  (ネタって…)

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